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冷土にて―夜の章― / 第九話 濃霧
車の向かう目的地は、中継地計画の拠点からさらに北東方向へ離れた位置。人里離れた山道の途中だった。集落まで歩く距離は都市側から向かう場合よりも長くなってしまうが、穂波たちが誰にもばれずに霧の中へ逃げ込むにはこうするしかなかった。雪路はその距離を往復しなければならない。...
読了時間: 31分


冷土にて―夜の章― / エピローグ
雪路は無事に巣文と千崎の下まで辿り着き、二人に肩を貸されながら千崎の車へ戻った。朝方に開始された霧への進行は、約十七時間後の深夜に雪路の帰還をもって完了とされた。 生還を果たした雪路の表情に安堵の色はなく、何も語ろうとしない。頬に涙の流れた跡を沢山残して、焦点の定まらない目...
読了時間: 9分


冷土にて―冬の章― / 第一話 白百合
ふと窓の外を見ると、庭の雑草の一枚一枚の葉に霜が降り、淡く光っていた。 冬の始まりを感じさせる朝だった。 雪路が寝泊まりしているのは三階の、手洗い場がついているだけの小さな部屋だ。入り口に「桔梗家具店」と綴られた木造建てのこの建物は、一階から二階は家具や調度品の販売フロアに...
読了時間: 23分


冷土にて―冬の章― / 第二話 ふたり
雪がくるぶしの高さまで積もり、庭の木に留まる野鳥が丸く膨れている、冬のある日だった。 時計が十三時を回ったのを見計らって、雪路は作業着に重ねて上着を羽織り、工房を出た。 工房に隣接した桔梗家具店の裏口に上がり、入ってすぐの壁に掛けてある手提げ袋とコートを回収して店側へ――レ...
読了時間: 18分


冷土にて―冬の章― / 第三話 閃光
絞り出した自分の声の情けなさに、雪路は顔を覆いたくなった。 「丸一日捜索に出てても平気な俺が何であれくらいで……」 雪路の変り果てた姿に、親方はひどく呆れていた。 「なんてザマだ。出掛ける許可を出すんじゃなかったよ。さっさと治すことだな、雪路」...
読了時間: 18分


冷土にて―冬の章― / 第四話 アンカー
降雪のピークと思われる時期が終わり、溶けていく雪の下からほんの少しだけ本来の道が顔を覗かせるようになった。冬はまだ続くが、これ以上冷えはしないだろうという期待が寒さを和らげる。 今日の午前の店番は雪路の担当だった。 元々賑わいのある店ではなく、多くは家具の修繕が目当ての客な...
読了時間: 16分
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